新規事業や事業改善のUX設計、検証についての弊社での流れを紹介します。それぞれのリサーチ手法などの詳しい解説は今後の記事で行い、この記事では4つの段階にわけて流れを説明します。

1. コンセプト設計、仕様決定段階、2. 使いやすさの追求段階、3. 見た目の追求段階、4. リリース後改善、新機能開発です。

1. コンセプト設計、仕様決定段階

プロダクトのコンセプトが具体的でない場合も含め、そのアイデアを持つ人をインタビューし、ビジネスゴール、コンセプトアイデア、想定ユーザー等について体系的に理解しプロダクトを制作するための情報を整理します。

その後、想定ユーザーのインタビューを行います。それは、以下に効果的です。
– 開発、デザインの時間的コスト削減
– ユーザー体験全体の設計
– 根拠のあるプロダクトコンセプト設計
– アイデアの取捨選択

開発、デザインの時間的コスト削減

多くの場合、そのプロダクトがリリース後に確実にユーザーに使われる、また期待通りに成長していく確証はないため、想定ユーザーに対しリサーチを行うことにより、プロダクトのうまくいかない部分や不必要な機能を事前に防ぐことによって、デザイン、開発に生じる制作・開発の時間的コストを抑えることができます。開発コードを書いた後に大きな修正をするより、リサーチを行う方が費用対効果が高いためです。

想定ユーザーのインタビューは多くの場合、リサーチャーと一対一で対話形式で行うため、ユーザーの深い思考や行動に対する動機、習慣を学ぶことができます。リサーチを目的に沿って正しく設計、実施し、リサーチの被験者からリサーチの目的である結果を正しく引き出し、中立的な立場で分析を行うためには専門的な知識が必要です。そのプロセスが正しくなければ逆に間違った情報に基づいてプロダクトづくりを進めることにもなりかねません。

ユーザー体験の全体の設計

想定ユーザーを定義していく際に制作するペルソナやユーザーの体験を可視化するカスタマージャーニーマップを状況に応じて作成し、チームでの認識を合わせることに使います。特にカスタマージャーニーマップ、ユーザーシナリオ(ユーザーの体験を小説のようにストーリーとして表したもの)を用いてプロダクトやオンラインでの体験だけでなく、それが使われるシーンやきっかけ等もプロダクト制作着手前に合わせて考えることにより、プロダクトの戦略を立てることができます。

根拠のあるプロダクトコンセプト設計

経験に基づく直感や予測に頼るリスクのあるコンセプト設計でなく、想定ユーザーのインタビューを行うことで、そのプロダクトに関連する想定ユーザーの習慣や意識を学びプロダクトのコンセプトに反映させます。

ユーザーはサービス設計のプロではなく、欲しいものを聞いてもわからないため、ユーザーの習慣や思考をリサーチを通して分析していくことが必要です。有名な話では、フォード・モーター創設者のヘンリー・フォードが「人々に何が欲しいかと尋ねたら、『もっと速い馬が欲しい』だった」というものがあります。特に新しいコンセプトのプロダクトを作る際は、人が見たこともないものを作るのでそれは顕著です。

弊社の過去のプロジェクトでは、想定ユーザーのインタビューを通し、競合サービスとの差別化が明確でない、想定ユーザーが価値を理解しないことを学び、サービスの設計を行い、競合優位性を持つプロダクトに作り変えたことなどがあります。

また、プロダクトコンセプトや機能の検証と合わせて潜在的ニーズを学ぶ目的でもプロダクト制作に着手する前にリサーチを行う価値があります。これは一度プロダクトをリリースすると変えることが難しい、根本的なユーザー体験を設計することに非常に効果的です。ユーザー体験の設計が間違っていれば、プロダクトが思うように使われず、開発やデザインにかかる膨大な時間的コストが無駄になってしまいます。それに対し、詳細なユーザー体験、例えばボタンの文言などは変更する際の時間的コストが軽微であるため、後でも変更がしやすいです。

また、想定ユーザーのインタビューを通し競合分析を行うことも可能です。そして、想定ユーザーのインタビューは分析を行い、チームで結果を共有し方向性を決定するワークショップを開きます。

アイデアの取捨選択

リサーチ結果に基づき、プロダクトのアイデアに対し優先順位をつけていきます。これにより、できるだけ少ない機能でありながら顧客価値があり、利益を生み出せる最小限のプロダクトでプロダクト自体のニーズを最小限のコストで検証することが可能です。繰り返しますが、使われないプロダクトや機能を開発するコストが一番大きく無駄になってしまうためです。

また、しっかりと想定ユーザーを理解し、プロダクトを使う体験を開発前にきちんと設計したほうが長期的に見てもコストを抑えられ、ビジネスの成功チャンスが高まるためです。根本的な機能以外は市場に出してから、検証を行い追加していくことが可能です。

また、すべての機能を実装しリリースするよりも、最低限の機能で早くリリースを行い販売収益を早く獲得し、注目している市場に競合企業が参入しようとしていても、先にリリースすることにより競争的優位を得ることできる見込みもあります。そのためにも、確実にアイデアの取捨選択を行うため、リサーチを行い想定ユーザーを分析することが必須です。

ユーザーインタビュー以外の手法

想定ユーザーのインタビュー以外には、複雑もしくは費用が高いプロダクトを少ない予算の中で制作しなければならない場合、コンシェルジュMVPと呼ばれる手法が役に立つ可能性があります。まるでコンシェルジュのようにオンラインで提供する予定のサービスを人力で行うことによりサービスコンセプトや機能のアイデア自体を検証する目的です。例えば、弊社の過去のプロジェクトでは一般的でない新しいタイプのサービスのオンライン予約システムを中心とするサービスを構築するプロジェクトで、高いコストをかけオンライン予約システムを構築する前に、限られた予算でできるだけ多くの利益を生み出すことができるよう、既存にあまりないサービスコンセプトのニーズを検証するために、システムを構築する代わりとして簡単なツールを使い予約を受け付け、予約日の日程調整はEメール等で行うことにより、低コストでサービスコンセプトの検証や新たなアイデアや問題を見つけることができ、サービスに対する潜在顧客のニーズを明らかにすることができました。

もしくは特定の状況で使われるサービスであればその場に赴いて、使われる状況やその時の人の行動を観察、分析することもサービス設計においてアイデアを得るために非常に効果的です。例えば、弊社ではあるイベントで使われるプロダクトをリデザインするプロジェクトで、そのイベントに赴いて人々がどのようにそのプロダクトを使うか観察し、その後インタビューをして彼らの体験を分析し、その学びをデザインに取り入れることにより、確実にプロダクトの改善を行いました。

上記のリサーチを通し、無駄な開発コストを削減し、ユーザーから使われるプロダクト、ビジネスに貢献するプロダクトであることにより多くの自信を持ってプロダクトの制作を行うことができます。これはプロダクト制作に関わる全ての人にとってモチベーション向上にも繋がり高い効果があります。

2. 使いやすさの追求段階

続いては画面遷移、画面設計、すなわち使いやすさの追求段階になります。コンセプト設計時に、コンセプトのアイデアをリサーチ協力者やプロジェクト関係者によりわかりやすく説明することに簡易的な画面を見せることもありますが、ここでは特にプロジェクト初期にプロトタイプ(模型)を通し、画面遷移のフローや画面内の設計について最適化していくプロセスについて紹介いたします。

なぜやるか

これも一度開発が進んでからだと大きな変更が損失を生んでしまうためです。プロダクトやサービスごとに理想な導線、画面構成は異なります。そのため、必ず想定ユーザーのプロダクト上での行動を分析するべきです。

また、早く作れるプロトタイプを用いて想定ユーザーが使いづらいと感じる部分を発見し、より効率的に設計をすることができます。必ずしも想定ユーザーが自分たちのようにソフトウェアの使用に慣れているわけではないので、想定ユーザーの行動を観察することが重要です。そして、彼らの思考プロセスを学びながら画面設計を最適化します。何を考えて、何を求めてクリックするのか、何が懸念で購入ボタンなどのクリックをためらうのか、何を探しているときに迷うのか、彼らが情報を探す際の思考プロセスとプロダクトの誘導の仕方は合っているかなど多くのことが学べるため、無作為な人ではなく、想定ユーザーとテストを行います。

例えば、極端な例ではメイク・コスメサイトのテストをメイクをしない男性と行っても、一般的に日々メイクをしている女性とは考え方が違い、専門用語も理解しないことからテストから妥当な学びを得ることができない事が考えられます。弊社の過去の新卒生用の求人サイトプロジェクトでは新卒生特有の応募の際の悩みや迷いを理解することにより、応募しやすいフォームをデザインすることに役立ちました。

反復的なプロセス

改善できる見込みがたくさんあり、スケジュールや予算が許す場合は複数回行い、改善していきます。1時間ほどのテストを1人づつ行い、計5人ほどを1回のサイクルと考えることが多いです。5人テストを行った頃、新たな問題が発見される傾向が減ることが多いためです。詳しい解説はこちらの記事をご参照ください。『ECサイトの改善をするには?(ビデオケーススタディ)』 – Amazonと楽天市場のUX比較研究-

主にテスト参加者に発話しながら自然に操作していただき観察することによって改善点を発見していく方法とタスクを課しそれを達成するまでのプロセス、問題を分析する方法があります。

テストを目的に沿って正しく設計し、ファシリテーションし、行動を観察し、結果を正しく分析する必要があります。例えば、テスト参加者が言ったことに対し強くリサーチ結果が引っ張られてしまえばそれはテストの結果を歪曲してしまうことにもなりかねません。人がソフトウェアを操作する際は口では説明できない行動が事実を語る場面があるためです。

仮にオンラインデーティングアプリのTinderのようなカードをスワイプをするUIがあったとします。テスト参加者はスワイプじゃないほうがいいと言います。これを鵜呑みにしてUIを変更するのではなく、そこに隠れたユーザーの不満を分析します。詳しく行動を分析した結果、カードをタップして詳細を確認する行動があり、カードをスワイプすること自体に問題があったのではなく、写真に比重が置かれすぎていてスワイプをするための情報が十分にないことが問題であるというようなことがわかることがあります。

3. 見た目の追求段階

なぜやるか

見た目と言っても単にきれいだというような表層的な意味だけでなく、そこから生じるユーザーの感情やプロダクトオーナーが伝えたいブランドイメージが的確にデザインを通して伝わるかを検証していきます。すなはちブランディングが重要なキーとなりますが、ブランディングによってユーザーの信頼、愛着心や購買意欲にもつながるため見た目のきれいさ以上にビジネスに影響を与える深い領域になります。

わかりやすい例ではEコマースサイトで顕著であると思いますが、信頼できる見た目のサイトと信頼に劣るサイトの見た目のサイトで考えてみれば、クレジットカードや個人情報などの繊細な情報を扱うサイトで信頼に劣る第一印象を与えてしまっては売上にも影響するかもしれません。逆に第一印象でいい印象を与えることができれば、ポジティブにお買い物をお客様に体験していただけるのです。

デザインの評価方法としては6段階に分けて考えることができます。
1. 機能する (バグやエラーがない)
2. 信頼できる (コンテンツに誤りはないか)
3. 使いやすい (ストレスなく目的を達成できるか)
4. 便利である (使いやすい以上の気の利いた体験はあるか)
5. 心地よい (使っていて知り合いに勧めたくなるか)
6. 価値がある (社会に価値を生んでいるか)

どんなプロダクトでも最低でも3までは達していなければなりませんが、競合がすでにマーケットにいる場合などは4以上を達成できるプロダクトでなければ差別化ができず存続が難しくなると言われています。その中でもブランディングは大きな要因の一つであるため、プロダクトの見た目を通し、ブランディングを構築することはビジネスに大きく影響すると考えることができます。

なにをやるか

弊社ではよくディザイラビリティテストと呼ばれるものを実施していて、複数のデザイン候補に対し、感覚的なデザインという分野を構造的に分析するため「信頼」「安っぽい」「今風」等キーワードが書かれたカードを用いて、テスト参加者にそれぞれのデザインに当てはまるキーワードを選んでもらい、それに対して質問を行いデザインから発生する感情を分析する方法です。情報コンテンツはすべて同じで、色や、写真などのビジュアル要素のみ違う3パターンほどのデザインを使います。「私は赤が好きだから」といった意見は個人の好みでしかないため、ブランディングを通して伝えたいイメージを構築する参考にはなりません。そのため、上述した構造化された方法で分析し、デザインのビジュアルというデザイナーの経験に頼りがちな抽象的な部分を論理的かつ根拠を持ってデザインしていくことが可能になります。

デザインがアプリ、Webサイト、パンフレット、広告やグッズ等色々なところで使われる場合はそれも考慮し、スタイルスケープと呼ばれるものを制作します。これは前述したビジュアルの使用シチュエーションにデザインを当てはめたポスターのようなもので、デザインが実世界で使われているところを俯瞰的に見せることにより、あるデザインが印刷物ではいいが、デジタルではよくないといったことを防ぐ目的や、様々なシチュエーションで使われたとしてもブランドのイメージを統一化させることにより、ブランディングがもたらすユーザーの信頼、愛着心や使いたくなる感情を引き出すことに寄与します。

4. リリース後改善、新機能開発

改善すべき問題の発見

最後はリリース後についてです。大きく分けて改善と新機能開発に分類すると、まず改善のためには当然改善すべき問題を発見する必要があります。そのためには、現状を分析していく必要があります。

リサーチには量的なものと質的なものがあります。先述したインタビューはひとりひとりと話し、時間もそれなりにかかるものなので質的なリサーチに分類されます。量的なリサーチとは端的にいうとアンケートなどの結果を数で判断するリサーチです。このような量的リサーチは何が問題なのかを発見することに優れています。一方、インタビューなどの質的リサーチは対話を通し、その場で質問を組み立てていくことによりなぜ問題が起きているのかを深掘りすることができます。

改善すべき問題を特定するためまずは量的リサーチで何が問題かを特定したあと優先順位をつけ、その後質的リサーチを通し、なぜその問題が起きているのかを解明しながら、解決策を編み出していくという流れです。

量的なリサーチ

量的なリサーチではアンケートだけでなく、グーグルアナリティクスのようなツールから得られるアナリティクスデータを用いて、ユーザーが実際のプロダクトを使って何をしているか、つまり、ページ遷移、クリックした場所、利用した機能、遷移前ページ、離脱ページを明らかにし、期待するユーザーの特定のアクション数や成功率を分析することができます。それはプロダクトのさまざまなコンテンツやUI、機能のパフォーマンスで何がうまくいっていないのかを特定するのに役に立ちます。

その他の分析、フィードバック獲得

また、分析ツールでは、あるページでの行動を録画してユーザーのマウスの動きやスクロールなどを観察することで、離脱ポイントを調べたりすることも可能です。

さらに、最近では多くのサイトが採用していますが、画面の端にポップアップを出すことによって、特定のページにいる特定のユーザーに質問をするといったようなこともできます。さらには、現場から上がってくる声としてカスタマーサポートチームと密接に働き、彼らが吸い上げた問題をデザインチームで解決していくということも非常に重要です。

プロセスの繰り返し

そして、解決すべき問題の優先順位が決定されれば、それを解決するためにもう一度先述したプロセスに戻ります。結局は常に移り変わりがあるデジタルプロダクトの世界では優れたプロダクトをユーザーに届けるため、上述したプロセスの地道な繰り返しを行っていく必要があるのです。新機能開発に関しても上述したプロセスを行っていき、機能の仕様を決定し、デザインしていきます。

また、長期的なユーザーがいるプロダクトの場合、継続的なユーザーインタビューを推奨します。彼らの場所に出向いたり、スケジュールを組むのが難しい場合でもビデオ通話ツールを使えば定期的に短いユーザーインタビューを行うことが可能です。そうすることでユーザーのニーズの移り変わりにもアンテナを張っておけますし、新機能制作の具現化、改善ポイントの発見に有効です。時にはユーザーからポジティブな言葉をもらうこともあるので、それはプロダクト制作に関わる人々全てのモチベーションアップにもつながります。

弊社では上記のようなコンセプト設計、仕様決定段階のリサーチ、使いやすさ、見た目の追求およびリリース後の改善、新機能開発のためにリサーチを行っています。どんなリサーチが必要かわからない方もご相談いただけますので、お気軽にご連絡ください。

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